補聴器と音楽そして年齢について 難聴は音楽を楽しむ上での大きな課題です。
聞こえが悪いと音楽はどのように聞こえるのか、補聴器を付けると聞こえが戻るのかと言った点について、音高や音量、音色といった音楽要素を通じてご説明します。
音は3つの要素から成り立つ
「音」には3つの要素が含まれています。
音高:音のピッチや高さの違いを表します。高い音は「ピーッ」といった鳴き声や笛の音に似ており、低い音は「ブーン」といった重低音や地響きのような音に似ています。
音量:音の大きさや強さを表します。大きな音は「ドンッ」といった迫力のある音や雷鳴のような音に似ており、小さな音は「ピン」といったかすかな音やささやき声のような音に似ています。
音色:音の質感や特徴を表します。楽器や声の個性や種類を音色で区別できます。
これらの3つの要素が揃うことで、私たちはその音が何であるかを判断できます。
人の可聴領域
私たちは0㏈から120㏈の音量で生活しています。
これよりも大きな音もありますが120㏈でも飛行機のエンジン近くに該当しますので、これ以上の大きな音は日常生活でまず聞くことはありません。
音高(可聴領域)ですが人が聞き取れる音の高さは20Hzから20,000Hzです。これよりも高い音は人には聞き取れません。
つまり私たちは0㏈から120㏈、20Hzから20,000Hzの音で生活しているのです。
各楽器の音域と人間の可聴領域
先ほど日常の音量と音高が0㏈から120㏈、20Hzから20,000Hzと説明しましたが、音楽もこの中に含まれます。
楽器 | 音量(㏈) | 音高(Hz) |
---|---|---|
ピアノ | 20㏈-100㏈ | 27.5Hz-4186Hz |
ギター | 40㏈-100㏈ | 82Hz-1318Hz |
バイオリン | 40㏈-90㏈8 | 196Hz-3140Hz |
フルート | 30㏈-90㏈ | 261Hz-2093Hz |
※音の高さは調律方法によっても異なります。A=440Hzの場合
人間の可聴領域の上限は20,000Hzですが、音程として認識できるのは30Hzから4,000Hz程度です。
これより下の音はごろごろと唸るように感じ、高い音は耳障りな音として感知できるだけとなります。
ピアノが人間の可聴領域に合わせて設計されているのがわかります。
加齢難聴は高音域が聞こえにくい
赤線より下が難聴に該当する。60歳以降には8000Hzが(軽度)難聴に該当することがわかる。
では今回の本題である加齢性難聴も含めて考えてみましょう。
私たちは0㏈から120㏈、20Hzから20,000Hzの音で生活していると紹介しましたが、これは健聴時の話です。皆さんご存知の通り聴力は年齢とともに低下します。
上図のように60代後半には4000Hzが軽度難聴に該当しています。このように高い音が聞こえにくくなるのは加齢性難聴の特徴です。
聴力図と各楽器の基音を照らし合わせ
65歳以上はピアノの4000Hzの音が聞こえにくい。
先ほどの聴力図に各楽器の周波数を照らし合わせます。重ねてみるとピアノの一部の音域が聞こえにくいことがわかります。
また、これは基音の場合です。音色(倍音)も含めると聞こえない範囲はさらに広がります。
音色も考慮するとさらに音域は広がる
倍音を含めるとさらに聞こにくい音は増える
音は一つの周波数だけでなく、複数の周波数によって構成されています。一番低い周波数を基音と呼び、基音の倍数にある周波数を倍音と呼びます。
例えばド(C)を約261.63Hzとした場合、同時に複数の周波数も振動しています。
基音:約261.63Hz
2倍音(1オクターブ上のC): 約523.25 Hz
3倍音(1オクターブと5度上のG): 約783.99 Hz
4倍音(2オクターブ上のC): 約1046.50 Hz
5倍音(2オクターブと大3度上のE): 約1308.62 Hz
※倍音は奏法や楽器によって異なる
私たちはこの倍音を音色として感じています。
倍音は楽器の音色や響きを形成し、音に豊かさや複雑さを与える重要な役割を担っているのです。倍音が含まれていない音は自然界に存在せず、ブザーやチャイムのように人を引き付ける音として使用されています。
さてピアノの一番右端にあるド(C8)ですが4186Hzを基音として音を鳴らすと、8372Hz、12558Hz、16744Hz…、の周波数も一緒に振動しています。
つまり健聴時でもすべての音域は聞こえていないのです。倍音の聞こえも年齢とともに狭まり60代後半以降は基音も聞こえにくくなります。
聞こえにくいと音楽は柔らかく聞こえる
高周波の音が聞こえにくいと音楽は柔らかく聞こえます。なぜかと言うと鋭く刺激的な音は高周波成分に多く含まれているためです。
高周波数である音の刺激度が減少し、低周波音や中周波音が主に聞こえるようになり音が柔らかくきこえます。
補聴器でも音楽の聞こえは戻らない
加齢性難聴は有毛細胞の減少が原因です。有毛細胞は入ってきた音を電気信号に変換して脳に届ける役割しています。
つまり有毛細胞が減少すると脳に伝える情報量も減ってしまうのです。特に高音域を拾う有毛細胞が減少しやすく、高い音から聞こえが悪くなります。
有毛細胞の再生技術は研究されていますが、現代ではまだ実用化されていません。
音を受け取る細胞がないため補聴器をつけても聞こえは戻りません。
補聴器は会話が優先
補聴器は会話を優先するように設計されています。具体的には次のような処理を行います。
・音量調整:小さな音を聞こえるまで増幅する
(例:テレビの音が聞こえやすくなる)
・音高調整:聞こえない音域の音を聞こえる音域まで下げる
(例:聞き間違いを防ぐ)
・雑音抑制:周囲の雑音を抑制し、必要な音を聞き取りやすくする
(例:会話の音を聞こえやすくなる)
このような処理は生活では非常に有効ですが、音楽を聞くことには不向きな面もあります。補聴器は音楽のような高周波音を持つ音や、特定の和音が続く音は雑音として認識します。音楽の音域を下げたり取り除いたりするので、本来の聞こえと違った曲になります。
音を楽しむには音楽モード
とはいえ補聴器と音楽が併用できない訳でもありません。補聴器のプログラムを音楽用に切り替えれば解決します。
補聴器のプログラムとは環境に応じて事前に設定した音に切り替える機能のことです。
例えば次のような環境に応じたプログラムにその場で変更することができます。
・静かな環境
・騒音下での会話
・電話
・音楽
静かな環境での聞き取りは聴力をそのまま補う調整で良いのですが、騒がしい環境だと音が入り過ぎて会話音が聞こえにくいことがあります。
そのため、環境によって音を切り替えるプログラム機能が必要になるのです。
音楽を聞く際も同様にプログラムを音楽モードに変更します。処理の仕方はメーカーによって違いますが、音楽モードの多くは補聴器が従来処理しているいくつかの機能がオフになります。
アメリカで行われた研究によると補聴器を通じて音楽を聞く場合はなるべく原音が保たれた状態の音ほどより良い音質だと感じることがわかりました。
そのため、聞こえが悪い方が音楽を聞くのであれば補聴器のプログラムを音楽モードに変更する、または補聴器を外すことで健聴時に近い音を楽しむことができます。
スマホで音楽を聞くならBluetooth対応補聴器
音楽プレイヤーを使用して音楽を聞くのであれば、Bluetooth対応補聴器がおすすめです。Bluetooth対応補聴器は補聴器をワイヤレスイヤホンの代わりに使用できます。
Bluetoothによって直接補聴器に送られてきた音声情報はもともとの音のバランスに近い音で聞けます。
プログラム変更の手間もありませんし、補聴器をワイヤレスイヤホンとして使用できるので付け替えの必要もありません。何より直接補聴器に音が届くので周囲 の雑音に音楽の邪魔をされません。
また近年ではBluetooth対応だけでなくハイレゾ対応の補聴器も登場しました。
ハイレゾとは、「ハイレゾソリューションオーディオ」の略で、日本語に訳すと「高精細/高解像度のオーディオ」です。
普通の音楽はCDのような形で保存されていて、その音楽の情報が44,100回(1秒間に44,100回)でサンプリングされています。ハイレゾの場合96,000回や192,000回のサンプリングレートを使用しているのです。
つまりハイレゾ音源はCDと比較すると音の情報量が多く原音に近いということですね。日常生活に質のいい音楽が欲しい方にハイレゾ対応の補聴器がおすすめします。
またハイレゾはハイレゾ対応の補聴器だけでなく音源もハイレゾで収録してある必要があるので注意してください。ハイレゾ音源はamazonミュージックやアップルミュージックなどでダウンロードすることができます。
まとめ
音楽と聞こえ、そして補聴器についてご説明してきました。
結論としては聞こえが悪くなれば音楽の聞こえは代わり、補聴器でも取り戻すことはできません。
場面で補聴器をきちんと使い分けて音楽をお楽しむことをおすすめします。当記事があなたのよりよい音楽ライフの手助けになれば幸いです。