音が聞こえる仕組みを小さな子供に説明できますか? 今まで無意識に聞こえていた音。そんな当たり前のことを、子供にでもわかりやすく説明するとなると困ってしまいますよね。
そこで今回、認定補聴器技能者の資格を持つ「音ときこえ」のエキスパートである私が「音とは」という点を、音の仕組み、音の三要素、人が聞こえる仕組みといったことまで、音について誰でもわかるようにご説明します。
ここを見て頂ければ、音とはということを今日からでも小さな子供に説明できますよ。
早速、音とはといった核心から紐解いていきましょう。
<目次>
音の仕組み
今回、音については単語の多さや話の難しさに分けて、次の3段階でご説明します。
音の仕組み(初級編):小さな子供向け。さらっと読みたい方に(難易度★)
音の仕組み(中級編):小学校高学年向け。音の基礎知識を抑えておきたい方に(難易度★★)
音の仕組み(上級編):中学生以上。音の専門家への入り口(難易度★★★)
音についての知識が全くない方でも、上級編へまで進んで頂けるように章分けをしました。
また、中級編と上級編は飛ばしても読み進めますので、気になる項目から読んで頂ければ幸いです。
では、最初に音の仕組み初級編からどうぞ。
音の仕組み(初級編)
結論から言うと、音とは振動です。もし、小さな子供に「音ってなあに?」と聞かれたら「音というのは振動で、物が震えると一緒に空気が動くんだ。
私たちの耳はその空気の動きを音と思うように作られているんだよ」と説明して頂ければ大丈夫です。
とはいえ、それでは説明が足りないと思いますので、音の仕組みを見てみましょう。
①モノに衝撃が加わる
②衝撃によってモノが震えて、周りの空気を押し出す。
③押し出された空気は、さらに隣の空気を押し出す
②~③を繰り返す
上記の手順で、音になります。もう少しわかりやすく、次は太鼓を例にします。
①バチが太鼓の面を叩く
②面が震えて、面の周りの空気を押し出す
③押し出された空気は、さらに隣の空気を押し出す。
面を抑えると音が止むように、太鼓は振動することで音が発生していることがわかります。
身近なところだと、喉元に指をあて「あー」と発声すると、声帯が細かく震えているのがわかりますよね。
このように、音が鳴っているものは振動しているのです。そして、空気の振動は波の形で確認することができます。
この波の形で、音が大きいのか、高いのかを判断できます。また、波の形をしていることから音波と呼ばれます。
では次に、この音波について詳しくご説明します。
また先に、音の大きさや高さといった音の三要素について知りたいという方は「音の三要素」をどうぞ。
なぜ、人は空気の振動を音と思うのかといったことを知りたい方は「人が聞こえる仕組み」にお進み頂ければ幸いです。
音の仕組み(中級編)
音の正体は振動とご説明しました。この空気の振動は波の形で表せることから、音波と言います。
音波で、大きい音なのか、高い音なのかを判断することができるのです。
音波(疎密波)
音波が発生する仕組みを、太鼓を例にご説明します。
①太鼓が鳴る
②太鼓の皮が右側の空気を押し出す
③押し出された空気がさらに次の空気を押す
④太鼓の皮は右に押し出された反動で、左に戻ろうとする
⑤④の反動で、空気も同時に左へ引っ張られる
初級編では説明しませんでしたが、実は、空気は押し出されているのと同時に引き戻されてもいます。
②と③の衝撃によって空気は空気に押し出され圧縮し、④の引っ張られた反動で空気の密度が下がります。
音波は、空気の密度が低いところを「疎」、空気が圧縮されているところを「密」と表現できることから疎密波とも呼ばれます。
実は音波は波の形をしていません。振動と一緒の向きに波も移動するのグラフも上記のように作図されます。
とはいえ、空気の変化量もわかりにくく、表としても作図しにくいため下記の図のように変換することが多いです。
見慣れた図になりましたね!次の章では、この疎密波について、さらに詳しくご説明します。
とはいえ、ここから先は音についての上級者編。そこまで、多くは求めないという方は、次の3つのことを抑えて「音の三要素」へお進み頂ければ幸いです。
・振動すると、周囲の空気の圧力は疎と密の部分が発生する。
・疎と密な部分を波線のグラフで表すことができる。
・波線で音の大きさや高さといった音の3要素が判断できる
「ここまで来たら徹底的に音について覚えて帰るぞ!」と言う方は、ようこそ上級編へ!
音の仕組み(上級編)
空気の振動が、波の形になる理由について中級編で説明しました。ただ、空気量の変化量がわかりにくいので、わかりやすい波の形に変換します。
この波の形は本来「横波」と呼ばれるものです。実は、波とはモノが振動する現象のことで、振動するモノ(媒質)によっては縦波と横波が存在します。音は縦波で、疎密波は縦波の一つの種類です。
縦波:振動方向が波の方向に平行の波
横波:振動方向が波の方向に垂直の波
縦波とは、振動方向が波の方向に平行の波のことです。太鼓をバチで叩いた時、面が振動する方向に空気も移動しますよね。これが、振動方向と波の方向が同じ(平行)ということです。
横波とは、振動方向が波の方向に垂直の波のことです。AとBの地点でピンと張ったロープを準備します。
A地点でロープを上下に揺らしてみると、B地点まで振動が波を打つように伝わります。
そしてこの時、ロープの揺れ(振動)は波と垂直になっているのです。
このロープの波の方向とロープの振れ幅の関係が横波なのです。
基本的には横波は※個体中しか伝わりません。ロープのように、横波を伝えるには原子同士がくっついている必要があるためですね。
音の媒体である気体は、原子がバラバラなので横波は伝わらないのです。そのため、音は縦波ということになります。
※最近の研究では液体にも伝わるとのことですがここでは割愛します。
ここで、ポイントなのが「振動方向が波の方向に垂直」の点ですね。横波は垂直、縦波は平行。つまり、縦波で平行に動いた分を90度にすれば横波になるということです。
空気の粒が進行方向に押し出された(密)場合は上に、進行方向と逆側に引き戻された(疎)場合は下に変換します。
すると中級編で説明した、横波の形状に変換することができるのです。そしてこの波の形で音の大きさや高さを判断します。
音の三要素
ピアノの音、お母さんが呼ぶ声、食器がぶつかった音、風切り音、犬の遠吠え。
このような音に、人は意識しなくても何の音か判断することができます。 それは、音にも種類があるからです。
音の種類は大きく分けて次の3つに分けられます。
・大小(強弱)
・高低
・音色
音の三要素を区別する違いが、縦線(疎密波)だったわけです。音の大小から詳しくご説明します。
音の大小(強弱)
音の大小とは、小さすぎて聞こえない音から大きすぎて煩わしい音のことを言います。
この音の大小は、押し出された(+引き戻された)空気の密度です。音波のふり幅で判断することができます。
太鼓の面をバチで強く叩くと、押し出される空気の密度も大きく、振り幅も大きくなります。
小さく叩けば、空気にかかる圧力もその力に見合った量だけ変化するということ。振動が大きければ、空気の押し出しも大きくなり、音が大きくなると言うことですね。
また、本来空気の変化を表す単位は「Pa」ですが、人間が聞こえる範囲を表すと20μPa~20,000,000μPaととても大きな数字になります。
そのため、人の聞こえに合わせて「㏈」で表記することが一般的です。
音の高低
体温計のピーという高い音、冷蔵庫のブーンという低い音。音には高低が存在します。音の高低は、1秒間に空気の変化が繰り返される回数(振動数)のことです。
一秒間に空気も押し出しされる回数が多いほど音は高くなり、少なくなるほど音は低くなります。単位はHzを使用し、空気の押し出し(+引き戻し)が1秒間に1回であれば1Hzです。
人は20Hz~2万Hzの音が聞こえると言われています。また、男性の声は1000Hzで女性の声は2000Hzの周波数。
つまり男性の声は、1秒間に1000回圧力の変化が繰り返されているということです。
音の音色
ピアノの「ド」を鳴らしたときに、「ソ」や「ミ」といった音が含まれていることは知っていましたか?
この「ソ」や「ミ」のように、基の音になる「ド」に含まれる周波数が音色の正体です。基の音は「基音」、基音に含まれる周波数のことを「倍音」と呼びます。
さて、謝っておくことがあるのですが、今まで紹介してきた上図のようなきれいな波は自然界に存在しません。
これは、「正弦波」と呼ばれるもので完全に一つの音の高さ(周波数成分)をもつ波。正弦波は人工的に作るほかありません。
私たちが生活で聞こえる音は、下記のようにもっと複雑な波の形をしています。
ピアノの「ド」には「ソ」や「ミ」が含まれるように、私たちが一つだと思っている音には多くの周波数が含まれています。ただ、多くの周波数と言っても、含まれる周波数は基音の倍という規則性があります。
例えば、基音32.703Hzであれば、65.406Hz(×2倍)、98.109Hz(×3倍)、130.812Hz(×4倍)の周波数が含まれる可能性があるということです。基音の倍の周波数だから「倍音」と呼ばれるのですね。
この倍音が、音色の正体です。ピアノの「ド」とギターの「ド」の音色が違うのは、含まれている倍音の種類や多さが違うから。
倍音は、素材や振動の仕方でどれだけ含まれるかがかわります。基本的には、倍音が多いほど明るく、少ないほど暗い音になる傾向があります。
以上、「音とは」ということを初級編から上級編、そして音の三要素を踏まえてご説明しました。下記でここまでの内容を簡単にまとめました。各ポイントの振り返りもできますので宜しければどうぞ。
①音は空気の振動によって発生する⇒「音とは」を振り返る
②振動は縦波で表現する⇒「縦波」を振り返る
③音の大きさや高さ、音色などの違いは波の形で判断する。⇒「音の三要素」を振り返る
さて、ここまでで物理の話で少し疲れたかと思いますので、生物の授業に移ります。そうです、人が聞こえる仕組みについてご説明します。
人が聞こえる仕組み
「音の仕組み」では、音は空気の振動ということを証明しました。ここでは、空気の振動を人はどう音と認識しているかといったところをご説明します。
上記は私たちの耳の構造です。音は外耳から順に、中耳、内耳そして脳へと届きます。音が伝わる仕組みを器官ごとにご説明します。
外耳
外耳は普段私たちが耳という部位です。外耳は、顔から飛び出しているため、空気の振動を効率よく集めることができます。外耳で集められた音は耳穴(外耳道)を通って鼓膜に届きます。外耳道という耳穴のトンネルを空気の振動が通ることで、共鳴し高音域の音を大きくし聞き取りやすくなります。
中耳
外耳から届いた音の振動を、鼓膜が受け取ります。中耳は空洞で、入り口で蓋をしている鼓膜が太鼓のように中耳内に音の振動を伝えるのです。この空気の振動を3つの小さな骨がさらに増幅させて、次の内耳に伝えます。
内耳
内耳には蝸牛と呼ばれる器官があります。蝸牛内はリンパ液で満たされており、耳小骨からの振動で蝸牛を揺らします。蝸牛内には有毛細胞という音を拾う細胞があり、振動を電気信号に変えて、次の聴神経に伝えるます。
そして、電気信号は聴神経から脳へ伝わります。脳は届いた電気信号を分析し、音を認識します。
上記の段階を経て、私たちは空気の振動を音と認識しています。私たち、空気の振動を拾いやすい構造になっているのですね。
また、年齢を重ねるにつれて聞こえが悪くなる加齢性難聴は有毛細胞の減少によって発症します。
有毛細胞が減少することで、十分に音を聴神経に伝えることができず聞こえが悪くなります。
まとめ
音の正体は振動です。物が振動することで隣の空気を押し、さらにその空気が隣の空気を押し出します。その空気の振動を耳が拾い音と認識するのです。
もし、小さな子供に「音ってなあに?」と聞かれたら「物が震えると一緒に空気が動くんだ。私たちの耳はその空気の動きを音と思うように作られているんだよ」と説明して頂ければ間違いないですよ。