「補聴器を装着するタイミングっていつが良いのかな?」
「どの程度聞こえが悪くなったら補聴器を装着するべきなのだろう。」
上記のようなお悩みからこのページに辿りついた方も多いはず。緩やかに低下していく聴力は、なかなか本人には気付きにくいものです。具体的な基準があれば補聴器装用の検討材料になりますよね。
そこで、今回は認定補聴器技能者である私が補聴器を付ける基準、年齢別の補聴器使用率、難聴のリスク、早期装用のメリットをご紹介致します。補聴器を付ける基準を把握しておけば、適切なタイミングで補聴器を購入することができますよ!
最初に、医学的な基準から補聴器を装着するタイミングをご説明致します。
<目次>
医学的に補聴器を装着する基準は40db以上の難聴
結論から申し上げますと、日本聴覚医学会難聴対策委員会は、補聴器を装着する基準として40db以上の難聴をおすすめしています。40㏈以上の難聴というのは下記のような聞こえのこと。是非、自分の聞こえやご家族の聞こえと比較して参考にしてみて下さい。
難聴の程度分類
日本聴覚医学会難聴対策委員会 2014年
※スマホの方は横にスクロールできます。
程度分類 | 平均聴力(㏈) | 自覚 | 推奨の対応 |
正常 | ~25㏈ | ||
軽度難聴 | 25db以上~40未満 | 小さな声や騒音下での会話の聞き間違いや聞き取りの困難を自覚する | 会議などの聞き取り改善目的では、補聴器の適応となることもある |
中等度難聴 | 40以上~70未満 | 普通の大きさの声での会話の聞き間違いや聞き取り困難を自覚する | 補聴器のよい適応となる |
高度難聴 | 70以上~90未満 | 非常に大きい声か補聴器を用いないと会話が聞こえない。しかし聞こえても聞き取りには限界がある | 補聴器 |
重度難聴 | 90以上~ | 補聴器でも聞き取れないことが多い | 人工内耳の装用が考慮される |
難聴の程度分類
日本聴覚医学会難聴対策委員会 2014年
40dbのきこえの基準のひとつとして、普段の会話が難しいと感じた時。普通の会話が不便と感じられた方は、40㏈以上の難聴に該当している恐れがありますので耳鼻科や補聴器専門店の相談されることをおすすめします。
ただ、難聴と自覚された方でも補聴器の購入や装用に踏み込めないという方も多いのではないでしょうか。
「自分だけ早く装用するのが恥ずかしい」
「私の年齢でも補聴器を使用できるの?」
日常生活で補聴器を見る機会はそう多くないもの。年齢的に使用できるのか、普及率的に補聴器を付けていても目立たないのか、という面から同世代の購入状況を合わせた上で検討したいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、次に年齢別の聞こえの自覚と補聴器使用率をご紹介致します。
補聴器を購入する年齢
最初に年齢による聴力低下を表した曲線をご紹介します。下記の表で、年齢別の聞こえを確認することができます。標準的な聴力変化曲線を見て、自分の聞こえが良い方なのか悪い方なのかを把握しましょう。
年齢別の聴力曲線
上記の表を見ると、60歳代は8000Hzの高音域が医学的に推奨される40㏈の難聴に該当しています。一般的に耳鼻科の聴力測定は、125Hzから8,000Hzまでの7周波数で聴力を検査します。8,000Hzが軽度難聴ということは、聴力測定の一番高い音が聞こえにくいということですね。
また、日本語の子音や摩擦音のS、H、F、K、Tなどは高音域に該当するので、60歳代から単語の聞き間違いが徐々に増えくる傾向にあります。具体的には「白い」と「広い」、「たかな」を「さかな」などの聞き間違いです。
なぜ、加齢性難聴が高音域の聞こえから悪くなるかといえば有毛細胞の減少が原因のためですが、詳しくは「高齢者の補聴器について」をご参照頂ければ幸いです。
70歳代になると、4,000Hzが40㏈の難聴に該当します。一般的な日常会話は250Hzから4,000Hzの間。一番聞こえやすい音が2,000Hz~4,000Hzです。一般的な日常会話である音域が難聴の区分に該当しています。そのため、75歳以上の約半数が聞こえの悪さを自覚しています。
では、次に聞こえが悪いと感じた年齢と、年齢別の補聴器所有率をご紹介します。
※日本補聴器工業会調査を参考
45歳から54歳
45歳から54歳の方で聞こえが悪いと自覚されている方は、男性で約5%。女性で約9%です。90%以上の方が聞こえに問題ないと思っています。全体の補聴器所有率は男性が0%未満、女性が約1%です。聞こえが悪いと自覚している方の中で補聴器を所有しているのは、男性が約0%未満。女性が約11%になります。
45歳から54歳は、まだまだ聴力の低下を自覚しにくい年齢のため、補聴器の所有率はそう高くありません。この年代の方は、聞こえに非常に敏感な方や、聴力の低下が顕著な方が補聴器の購入することが多いです。
55歳から64歳
55歳から64歳の方で聞こえが悪いと自覚されているのは、男性で約7%。女性で約10%です。約10人に1人はきこえが悪いと感じています。
しかし、補聴器所有率は男女ともに0%未満。まだ、大幅に聴力が低下していないことや、現役で働かれている方も多く、補聴器は検討段階と考えられているようです。
65歳から74歳
65歳から74歳 の方で、聞こえが悪いと自覚されているのは男性で約16%、女性で約19%です。全体の補聴器所有率は男女ともに1%。聞こえが悪いと自覚している方の中で補聴器を所有しているのは、男性が約6.2%。女性が約5.2%になります。
65歳から軽度難聴に該当する方も多くなります。ただ、補聴器の所有率が約1%未満ですので。同世代間では早めの補聴器装用になります。
75歳以上
75歳以上で聞こえが悪いと自覚されているのは、男性40%、女性38%です。3人に1人は聞こえにくいと思っています。全体の補聴器所有率は男女ともに8%。75歳以上の約10人に一人は補聴器を所有しています。また、聞こえが悪い方だけで補聴器の所有率を絞り込むと男性約25%、女性約21%になります。聞こえに違和感を覚えた約4人に1人は補聴器を購入しています。
75歳以上の3人に1人は聞こえが悪いと思っており、補聴器の所有率も高いです。約10人に1人は補聴器を所有している、少なくとも75歳以上の約半数は聞こえに不便を感じられているため補聴器を装用していても珍しいことではありません。
以上、年齢で見た補聴器を装着するタイミングでした。年齢的には65歳以降から補聴器装用を考えられても不思議ではないということですね。
また、年齢が高くなるにつれて所有率も75歳以上の10人に1人が補聴器を所有しているという結果がでました。周囲の状況に合わせて購入したいということであれば75歳以上を基準にすることをおすすめします。
さて、ここまで医学的、年齢的観点の二つから補聴器を付ける基準についてご説明ましたが、補聴器店としては補聴器の装用は「聞こえが悪い」と思われた今この時をおすすめします。
なぜなら、難聴を放置しておくとリスクがあるためです。耳と言うのは人を構成する器官のひとつ。ひとつの器官が衰えると、それに伴い全体のバランスが崩れてしまいます。
また、早期装用することで得られるメリットもありますので、次で詳しくご説明します。
放置しておくと問題?難聴のリスクと早期装用のメリット
音が聞こえにくいというのは、TVの音が大きくなる、会話がスムーズに行かないだけでなく身体的な問題も同時に起こります。
聴覚器官というのは体の身体機能に密接に結びついているのですね。補聴器を装着することで、健聴時の聞こえに近づけることができ身体的バランスを整えることができます。
最初に難聴を放置するリスクから触れていきます。
難聴を放置しておくリスク
・認知症の発症リスク
・交通事故のリスク
・転倒のリスク
上から順にご説明します。
認知症の発症リスク
難聴があると認知症を発症するリスクが高まります。2017年に世界的に権威のあるランセットという医学雑誌に取り上げられたデータによると、予防可能な認知症の原因の1位が難聴!詳細な内訳は下記の通りです。
※認知症予防・介入・治療のためのランセット委員会の報告から
上記の図によると、難聴を防ぐことで認知症の要因の9.1%が予防できるということです。
実際にイギリスの英国長期加齢調査では3000人の人を対象に補聴器と認知症の関係を調べたところ、健聴な人に比べて難聴があると記憶力の低下がみられました。しかし、補聴器を装着している人によって記憶評価の低下がみられなかったのです!
なぜ、聞こえが悪くなれば認知症のリスクが高くなるかと言うと、難聴によって社会や周囲とのコミュニケーションの減少により認知機能の低下が考えられます。
補聴器を早期装用することで社会的孤立を避けるとともに、認知機能の低下を防ぐことができるのですね。
交通事故のリスク
難聴が高度になるほど交通事故が起こりやすいです。交通事故と聴力の関係をカナダで5年間4万6千人を対象に行われた調査によると、高齢者ほど交通事故が多いという結果がでました。
なぜ、難聴があると交通事故が起こりやすいかと言うと、耳からの情報が限られているためです。
例えば、交差点で急に飛び出してきた自転車の運転手が、イヤホンを付けていたなんてことはありませんか?これは視界に車が見えなかったことで自転車が飛び込んできたことが問題です。
自転車の運転手がイヤホンを外して視界の外の車の音が聞こえていたら防げていたかもしれません。周囲の危険予知をするためには、視覚情報だけでなく聴覚情報を重要ということですね。
補聴器を装着することで、聴覚情報を補うことができます。視覚と聴覚で周辺情報を得ることで交通事故のリスクを下げることができるのです。
被害者だけでなく加害者にならないためにも、外出の際は補聴器を装着しリスクに対応できる状態にしておくことをおすすめします。
転倒のリスク
難聴が10㏈悪化することで転倒のリスクが1.4倍高いというデータがあります。高齢者の転倒は、打撲や骨折だけでなく最悪寝たきりになるなど非常にリスクが高く、転倒してからそのまま介護になるケースは非常に多いです。
聞こえが悪い人は、健聴の人と比べて2倍の転倒リスクがあるという報告があります。中等度難聴(50㏈以上)の難聴の場合は約4倍!実は、人というのは周囲の音がはいることで、位置情報を得て体のバランスを保っているのです。
実際に、65歳以上の方が3ヶ月以上の補聴器装用で、補聴器を付けている人の方が平衡感覚において優れているという報告があります。
転倒、ひいては寝たきりのリスクを回避するためにも音情報は非常に重要。転倒を予防するためにも、補聴器の装用はおすすめです。
以上、難聴を放置するリスクをご紹介させて頂きました。聞こえが悪くなるということは、周りとの日常会話がスムーズにならないだけでなく脳や身体機能にも支障をきたすのですね。
外出や日常生活を維持するためにも聞こえを保ち続けることは大切なこと。聞こえを保つことで予防できることができますので、補聴器の早期装用をおすすめします。
また、補聴器の早期装用には身体的リスク回避だけでなく多くのメリットがありますので、次に補聴器早期装用のメリットをご説明致します。
補聴器を早期装用するメリット
補聴器の早期装用のメリットは次の通りです。
・音の聞き取りが保たれる
・早い段階で補聴器の取り扱いに慣れる
次で上から順にご説明します。
音の聞き取りが保たれる
補聴器を早期に装着すると音の聞き取りが保たれます。音の聞き取りが悪くなると、話をしていることはわかるけど何を言っているのかわからないという事態の原因。なぜ、このような事態が起こるかと言うと、長年の難聴によって音の引き出しが減っているためです。
脳には入ってきた音を分析判断する機能があります。例えば「りんご」と聞くと、赤くて丸い果物と思い浮かべることができますよね。脳が過去の経験を引き出しから「りんご」を取り出しているためです。
ただ、「りんご」という音を長い期間聞くことがなければ、次第に引き出しから消えてしまいます。
引き出しから消えてしまうと、急に「りんご」と聞いても、りんごが何であったのか、どんな形であったのか、そもそも食べ物かどうかも思い出すのが難しいです。
音が入らないことで徐々に引き出しが減っていくと、単語の音の聞き取りをするのが困難になります。
補聴器を装用することで音の引き出しを常に新しい状態に保つことができるのですね。音の聞き取りを保ち、周囲とのコミュニケーションを円滑にするためにも補聴器の早期装用をおすすめします。
早い段階で補聴器の取り扱いに慣れられる
早期に補聴器を装着していると、操作や取扱いに慣れやすくなります。補聴器は耳に装着することが前提に制作されているので、非常に小型です。使用者は電池交換(充電器に取り付け)や音量プログラムの操作など指先の細かな操作が求められます。
細かな操作は高齢者だけでなく若い方でも難しいです。そのため、なるべく早い段階で補聴器を使用することで負担を少なく補聴器を使い始めることができます。
以上、補聴器早期装用のメリットでした。このように補聴器の早期装用にはたくさんのメリットがあります。
早く装着しているほど、音の聞き取りが保たれて操作に慣れることができるので補聴器の早期装用はとってもおすすめです。
では最後に、ここまでの流れを簡単にまとめてご説明します。
まとめ
医学的に見て補聴器を装着する基準は40㏈以上の難聴です。年齢的には65歳以上から補聴器を検討する良いタイミング。
また、本人またはご家族様の聞こえが悪いと感じられているのであれば、補聴器専門店としては「今この瞬間」が補聴器の購入を検討することをおすすめします。
補聴器を早期装用することで聞こえを維持するだけでなく、認知症の防止に加わり健康寿命を延ばすことができますよ。
きこえのお助け隊では補聴器の無料レンタルを行っておりますので気になる方は是非下記の案内フォームよりお申込み頂ければ幸いです。